信州大学医学部 地域医療推進学教室
中澤勇一 准教授 医師
2004年の新初期臨床研修制度の開始を引き金に、地域の中・小の自治体病院の医師不足が顕在化し医療崩壊という言葉が頻繁に聞かれるようになりました。この時期から「地域医療」はメディアを通じて住民の関心事になったと言えます。
「地域医療」という用語が、メディア関係者、一般住民などの立場の違いによって、違った意味で使われているとの論文があります(日本医事新報4619:86,2012)。
この論文中391件の新聞報道において、「地域医療」を都道府県・市町村あるいは受診患者の居住地域などの特定地域の医療としたものが211件、受診しやすい身近な医療としたものが101件、医療を構築するための仕組み23件、総合医(地域住民の要望に応え様々な業務に対応できる医師)の医療21件、その他35件でした。
同じ報告で、住民がイメージする「地域医療」は、へき地での医療、自治体病院・診療所の医療、特定地域での医療、などの地域に焦点を当てた医療と、住民・行政・医療機関が一体となって提案する医療、住民のための医療、などの医療システムに基づいて提供される医療が、主なものでした。
「地域医療」という用語は、立場の異なる人々が様々な意味で利用している可能性が高く、「地域医療」という言葉を使う時には、必ずしも相手が同じ意味として捉えていない可能性があることに留意する必要があります。
一方、医療関係者ではどうでしょうか。多くは、「地域医療」の地域に注目し、曖昧ではあるものの都会でない・都市部でない地域で行われる医療全般と認識しているかもしれません。
しかしながら、1980年には地域医療研究会が「地域医療とは包括医療(保健予防、疾病治療、後療法及び更生医療)を、地域住民に対して杜会的に適応し実践すること」と、さらに自治医科大学の梶井英治教授は、その著書で「地域医療」を「地域住民が抱える様々な健康上の不安や悩みをしっかり受け止め、適切に対応するとともに、広く住民の生活にも心を配り、安心して暮らすことができるよう、見守り、支える医療活動」と定義しており(地域医療テキスト,医学書院,東京,2009)、「地域医療」が単に特定地域での医療を行うことではない点を強調しています。
さらに、長野県の医療の巨星、佐久総合病院の若月俊一元院長は「医療はすべからく地域医療であるべきで、地域を抜きにした医療はありえない・・」と述べています(JIM21:438,2011)。
これは、「大病院で働くにせよ、地域の中小病院や診療所で働くにせよ、どんな形の医療であれ地域を診るという視点は必要であり、地域医療という枠組みは医療そのものである。」とも言い換えることができ、「地域医療」とは医療を行う上での姿勢であり、どの地域・医療機関においても、そしてどの診療科に従事していても、地域から求められる役割を認識し全うする態度そのものと理解できます。